最高裁判断を “正社員、待遇下げ「平等」の衝撃” とした報道についてのPMPコメント

最高裁判断を “正社員、待遇下げ「平等」の衝撃” とした報道についてのPMPコメント

10月20日付日本経済新聞で大きく扱われていました。7月の済生会山口総合病院事件の最高裁判断に関する記事です。
同一労働同一賃金の観点から病院の正規職員と非正規職員間の格差是正を試み、就業規則の変更により、これまで正規職員だけを対象としていた扶養手当や住宅手当を、非正規職員を含む全職員向けの子ども手当と住宅補助手当などに改めました。その結果、正規職員196人が手当減となり、これを不服とした職員9名が合計額で7万円の返還を求めた裁判です。

注:要求した返還額が9人合計で7万円であるという報道を筆者は一切目にしませんでした。

最高裁は正社員の手当削減による正規・非正規間の格差解消手法を容認し、裁判官全員一致で上告を棄却し、高裁の判断が確定しました。
新聞報道では、この最高裁判断を “正社員、待遇下げ「平等」の衝撃” と報道。テレビのワイドショーなどでも、評論家は「そもそも非正規職員の待遇を正規職員並みに引き上げることで同一労働同一賃金を目指すべきですね」という、誰が考えても当たり前なコメントに終始し、結局のところ、現実に即した建設的な提言は何もなかったという印象を持っています。

PMPはこう考えています。
同一労働同一賃金を支えるパートタイム・有期雇用労働法では、第8条 “不合理な待遇の禁止” で「事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。」として、正規・非正規間での、それぞれ=個々の労働条件における不合理な相違を禁止しています。

今回の病院の対応は、正規・非正規間の待遇差を分析したところ、正規職員のみを支給対象としている扶養手当・住宅手当などの現状が、不合理な待遇差であるという認識の下で同一労働同一賃金の観点からの待遇差の解消を目指したものです。その意味では、この病院が決断した同一労働同一賃金の是正策は、同法の趣旨に沿ったものといえます。

では、正規職員の手当減という、いわゆる労働条件の不利益変更による是正策は適正なのでしょうか? これについては労働契約法を確認する必要があります。同法第10条は第9条 “就業規則による労働契約の内容の変更” の但し書きの条ですが、「使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。(後略)」との定めがあります。要は、手当減という労働条件の不利益変更であっても、変更の必要性があり、変更後の就業規則の改定内容に相当性があり、正規職員の受ける不利益の程度が合理的な範囲に留まるのであれば、就業規則の変更は認められるというものです。
従って、この最高裁の判断は、現行の労働法に沿った適切なものであるというのがPMPの評価となります。

もっとも、PMPで人事制度の見直しを引き受ける場合は、新しい人事制度の結果、非正規社員には新たに手当が支給されるが、労働条件の不利益を被るのは正社員となるというような、はっきりとした利益派・不利益派のグループに二分されるような人事制度改定の提案はしません。正社員の中にも確実に労働条件の利益を被る利益派を出現させるとか、非正規に対しても、一律に扱うのではなく、それぞれの “職務の内容と当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情” に着目して、今回の改定により利益を受けるグループと利益を受けずに現状通りで留まる(要は手当を支給されない)グループを混在させるとか、手当とは別の人事制度の項目を見直しの対象として、手当改定では不利益を被る層(の一部)がこちらの改定では利益を受ける等々の工夫を凝らす余地を検証します。

以    上