最低賃金に関する中小企業団体の要望書
日本商工会議所・東京商工会議所・全国商工会連合会・全国中小企業団体中央会の中小企業4団体が先月、政府に対して連名で、最低賃金に関する要望書を提出しています。
傾聴すべき意見が含まれていると思い、ご紹介致します。
全文は『最低賃金に関する要望』をご参照ください。
まずPMPが注目し共感を覚えたのは、昨今の最低賃金の決定に関する政府の姿勢への批判です。要望書では “なお、昨年の「新しい資本主義実現会議」(2023 年8月 31 日開催)では、最低賃金について「2030 年代半ばまでに全国加重平均が 1,500 円となることを目指す」との新たな政府方針が示された” ことに触れ、これに対して“政府の役割はあくまで環境整備であり、最低賃金制度の主旨を踏まえれば、これを以て 賃上げ実現の政策的手段とすることは適切ではない” と言い切っています。
今回の春闘についても、同一労働同一賃金を理由とする派遣労働者の労使協定方式による賃金決定についても、何かと政府が関与しようとしていますが、賃金の決定などは市場の原理に委ね、徒に政府が介入すべきではなく、やむを得ず政府が介入するにしても最低限に留めると同時に、次の局面では前例を理由に踏襲するのではなく、都度政府介入の是非を是としてもその程度についてゼロベースで検討すべきものと考えます。
その上で、要望書は、実施の最低賃金決定プロセスについて、“中央最低賃金審議会は、2022 年度の審議以降、公労使が労働者の生計費、類似の労働者の賃金及び通常の事業の賃金支払能力の法定三要素に関するデータを元に審議を重ね、各種統計を参照する形で目安額決定の根拠が明確に示されるなど、プロセスの適正化が一定程度図られてきた”と評価する一方で、地方最低賃金審議会では、「目安額ありき」「引上げありき」で、地域の経済実態を十分踏まえた議論がなされていないとの声を紹介しています。
また最近の最低賃金の大幅な引き上げにより、いわゆる「年収の壁」問題がより顕在化し、「年収の壁」に届かないように労働時間を調整(就労調整)するケースがこれまで以上に増加しており、これが中小企業・小規模事業者の人手不足に拍車をかけていると指摘しています。政府が打ち出した昨年9月に「年収の壁・支援強化パッケージ」については「制度が複雑で使いづらいとの声が多く寄せられている」とコメントしています。
注:PMPは政府の年収の壁・支援強化パッケージについては大局観に欠ける場当たり的な政策でしかないという評価を下しています。
PMP News 2023年29日付『 「年収の壁」支援強化の具体策を発表。』をご参照ください。
さらに注目すべきは、「被用者保険の適用要件(企業規模、労働時間、賃金等)や第3号被保険者制度のあり方の見直し、所得税制における基礎控除額や給与所得控除額引上げ等の検討」を要望しており、まさにこれらの見直しこそが大局観のある改正に繋がるものだと思っています。
最後にご紹介するのは、「中小企業・小規模事業者は、労働分配率が7~8割と高いことに加え、エネルギーコストや人 件費などコスト増加分の価格転嫁が十分には進まず、賃上げ原資は乏しい。自発的かつ持続的な 賃上げには、生産性向上などの自己変革による付加価値の増大に加え、労務費を含む価格転嫁の 推進により、賃上げ原資を確保していく必要がある。」という、まさにごもっともな主張でしょう。一方でこれを理由として政府内には中小企業不要論☞合併の促進による組織の拡大への奨励策を志向する向きもあります。これも政府による過度な中小企業保護ではなく、市場原理を極力活用しながらの組織の自然な活性化を進める方向で政策の梶が切られることを強く望みます。
以 上