専門業務型裁量労働対象業務の拡大 – 令和6年4月施行の改正労基法施行規則関連 番外編
来年4月から労基法施行規則が改正され、専門業務型裁量労働の対象業務として、新たに、銀行又は証券会社における顧客の合併及び買収に関する調査又は分析及びこれに基づく合併及び買収に関する考案及び助言の業務(いわゆる M&A アドバイザーの業務、以下「M&Aアドバイザリー業務」)が追加されることになりました。
2018年の所謂 “働き方改革国会”で、企画業務型裁量労働の対象業務を拡大し、新たに“課題解決型の開発提案業務”と“裁量的に PDCA を回す業務”を追加するという労働基準法改正案が審議される予定でした。しかしながら、安倍首相(当時)から 国会質疑の際、“裁量労働制で働く労働者の労働時間は平均的な者で比べれば一般労働者よりも短いというデータがある”と答弁があり、後日、この答弁の裏付けとなるデータ処理作業での厚生労働省の初歩的ミスが発覚し、安倍首相は国会で謝罪・・・企画業務型裁量労働改正法案は働き方改革関連法案から削除される事態となりました。
さてこの裁量労働対象業務の拡大。厚生労働省の労働政策審議会 (労働条件分科会)で、2019年7月から2023年2月まで継続して審議されました。その結果が今回の、2023年3月30日付、金融機関のM&A業務を専門業務型裁量労働の対象業務に新たに追加する(企画業務型裁量労働の対象業務への追加なし)という労働基準法施行規則の改正に繋がりました。
今回の裁量労働の法改正は、一般メディアは殆ど報道もしていませんね。何故でしょうか?今回の通常国会では岸田首相は、働き方改革国会の安倍首相のように裁量労働について野党から厳しい追及もされていません。国会の審議を通さず厚生労働大臣の権限で決定・実施できる労働基準法施行規則の改正による裁量労働の拡大で終わらせた事も影響はあるように思えます。今回は予算の成立が3月28日、4月から始まる主要法案の与野党の論戦前の3月30日付の労働基準法施行規則は加藤厚生労働大臣(当時)の権限で決定されました。テレビでも新聞でも、今回は殆ど報道もされず、国民の関心も薄いようです。
今回の改正に至る労働条件分科会での審議を見ましょう。
最初に、働き方国会で削除された企画業務型裁量労働の対象に “課題解決型の開発提案業務”と“裁量的に PDCA を回す業務”を追加する件は、経営側から、コロナもありさらにニーズは高まっているという声がありました。厚生労働省事務方より「企画型は企画、立案、調査及び分析という業務になっており、基本的にはこちら(企画業務型の意 – PMP)で業種など、例えば何々業という形で限定することは困難である」という意見や、既存の専門業務型裁量労働の対象業務、特に ①新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務や ⑦システムコンサルタントの業務 である程度、経営側の高まるニーズには対応も可能ではないかという意見が出され、まず、企画業務型裁量労働の拡大は見送られてしまいました。
その代わりに「金融機関において、顧客に対し、資金調達方法や合併、吸収、買収等に関する考案及び助言を行う業務は極めて専門性が高く、労働時間とその成果が比例しない性質のものであり裁量労働制の対象にふさわしい」と言う意見が出され、これを専門業務型裁量労働の対象業務に加えるかの検討に移りました。この時点で、議論は自ずと、国会で審議される労働基準法改正案から厚生労働大臣権限で決定できる労働基準法施行規則改正案に移ってしまいました。
実は、M&Aアドバイザリー業務は既に高度プロフェッショナル制度の対象となってはいるのですが、「我が国の賞与決定の方法が、個別企業労使で都度決定をする、あるいは変動部分の報酬も高いということもありますので、高度プロフェッショナル制度などの要件を常にクリアすることが難しい場合もあり、高プロを選択できない場合も少なくない」という意見が添えられ、今回の金融機関におけるM&Aアドバイザリー業務が専門裁量の対象業務に追加されることになりました。高プロの年収要件がクリアできないから専門裁量にという流れです。これも随分と変なロジックだと思います。実際、同様の指摘をした分科会委員の発言もありました。
また、M&Aアドバイザリー業務は銀行・証券以外の非金融機関でも行われているという指摘に対して、労働者側委員からは、「ほかの業態におけるM&Aアドバイザリー業務もいずれ対象になるのではないかということについて、労働者側としてかなり懸念している」とのコメントに対しては、使用者側委員からは「銀行、証券会社におけるM&A アドバイザリー業務については制度を適用するのにふさわしい働き方となっているということを私どもとして把握したことから、」とのコメントもあり、対象を銀行・証券に限定するという結果となったようです。
さて、M&Aアドバイザリー業務を行っている銀行・証券以外の各社はこの決定経緯に納得できるのでしょうか? 疑問が残ります。
4-3
(Q)M&A仲介会社の労働者についても、M&Aアドバイザリー業務によって専門型を適用することは可能か?
(A)M&A仲介会社の業務について適用することはできない。(後略)
※11月6日付 厚生労働省 「令和5年改正労働基準法施行規則等に係る裁量労働制に関するQ&A 」より抜粋
以 上