労働時間管理 – みなし労働時間制の導入状況 –
この度、厚生労働省から令和2年「就労条件総合調査」の結果が公表されました。その中で、厚労省の調査結果のポイントには触れられてはいない、みなし労働時間の現状に焦点を当ててみました。
みなし労働時間制は営業職に広く適用されている事業場外みなし労働時間制(労働基準法第38条の2)、システムエンジニアなどに適用される専門業務型裁量労働制(同法第38条の3)、人事や経理の本社スタッフ部門に適用される企画業務型裁量労働制(同法第38条の4)の3種類があります。
下表は、みなし労働時間制を採用している企業割合です。従業員数1,000人以上と規模の大きい企業ほど、みなし労働時間制の導入の割合が高い傾向にあるものの、この規模の企業でも4分の3の企業はみなし労働時間制を採用していません。
みなし労働時間制の種類別の状況を見ると、裁量労働は専門業務型1.8%(1,000人以上の企業でも10.6%)、企画業務型0.8%(同じく4.8%)程度に留まっています。専門業務型は、法で適用対象業務がはなから限定されており、企画業務型は更に労使委員会方式という面倒な手続きが必要となります。
要はみなし労働時間制とひとくくりに纏められていますが、3つの労働時間制度はそれぞれの法で定めに従って導入しなければなりません。同じ裁量労働でも企画業務型は労使委員会を設立し、適用対象者の事前の個別同意が必要である等々、煩雑な手続きが必要となります。
注:PMPはみなし労働時間管理制度の導入には自信があります。裁量労働についても、一般的な労使協定方式に加えて、労働時間設定改善法による導入等豊富な経験を有しています。(宣伝です!!)
表から3つのみなし労働時間制の中で、一番利用されているのは事業場外みなし労働時間制である事がわかります。
この事業場外労働が最近問題となっています。事業場外労働は、ご存知の通り「労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難い」時に限り適用できるものです。モバイルPCやスマートフォーンの携帯が当たり前のようになった昨今では、“事業場外でも労働時間を容易に算定できる”ようにもなってきました。
“事業場外”と言う制限があるため、営業担当者が会社(=事業場“内”)で提案書を作成している労働時間は“事業場外”ではないため労働時間が算定できるとされ、原則としてみなし労働とはみなされません!
かつて事業場外みなし労働時間制を幅広く導入していた製薬業界。製薬会社では全国6万人と言われたMR(メディカル・リプリゼンタティブ=医療従事者向け医療情報提供者)の方々に広く事業場外労働を適用していました。この製薬業界に対して厚生労働省は、労基法第38条の2の一字一句の解釈を盾に、詳細な事業場内労働の労働時間管理を毎年毎年執拗に要求してきました。PMPも随分とかかわってきましたが、全国の製薬会社の営業所を狙い打って、労働基準監督署の立入検査が繰り返し繰り返し行われてきました。コロナ禍の在宅勤務への切り替えという事情もあるのだろうとは思いますが、ここにきて大手製薬会社の中には、MRに対して事業場外労働時間制を見直し、フレックスタイム制に切り替える傾向もチラホラと見られるようになりました。
下表は、みなし労働時間制の適用対象の労働者の割合です。1,000人以上の大手企業でも1割をやや超える程度の適用実態です。日本では、みなし労働ではなく、ほとんどの社員は労働時間を管理する=残業代を支給されるというのが実態のようです。
実は、みなし労働時間制は、欧米では当たり前のように活用されているホワイトカラー向けの労働時間の仕組みに酷似しています。
もっとも、欧米ではいわゆるホワイトカラーであれば、事業主が毎日の労働時間管理を行わず、結果として残業代も支給しないエグゼンプト=Exemptとなります。日本のような細かく煩雑な労働法の規制はありません。
PMPではこれまでも日本市場にビジネスチャンスを求めて上陸する多くの海外企業の支援をしていますが、海外本社からの出張者に「日本ではマーケティングの担当者にもタイムシートを毎日記入させ、残業代を支払わなければならない」と言う説明をすると、一様に“信じられない”と言う反応が返ってきます。
結果や成果を問われるホワイトカラーに対して、単に働いただけの労働時間により給与を支払うという日本の労働法の仕組みは、合理性がないように思えるようです。日本ではホワイトカラーに対しても残業代の支給が義務付けられるのであれば、総額人件費を管理する観点からも、予測の難しい残業代の支給対象者を減らそうとし、日本での雇用が圧縮されるという事になります。結果として、海外企業の日本の現地法人には、日本市場に直接かかわる社員のみを雇用し、管理や企画の本部スタッフは日本ではなく他のアジア諸国に置くという方針も決定されます。欧米のマネジメント手法を実地で学ぶ機会が日本では少ないという事態にも繋がってしまいました。
一昨年、政府は経済界の要請を受け、企画業務型裁量労働の拡大を目指しましたが、厚労省の杜撰なデータ収集もあり、これがとん挫しています。厚労省は昨年今年と、改めて裁量労働の実態調査をやり直しています。この間、みなし労働の適用拡大に繋がる法改正が見送られています。改めてみなし労働の改正法案が国会に上程されたとしても、国民に2018年の杜撰なデータ事件の記憶が鮮明に残っている限りは、果たして歓迎されるのでしょうか?不安は消えません。
日本の常識は海外での非常識の典型例ですね。海外企業と競合するためにもエグゼンプトの範囲を欧米並みに揃えることは必要だと思っています。今の日本は独りよがりで生き残れるほど強い国ではないのですが・・・・
以 上