4年半の自宅待機への評価 ‐ みずほ銀行事件 2024年4月24日東京地裁

4年半の自宅待機への評価 ‐ みずほ銀行事件 2024年4月24日東京地裁

みずほ銀行の裁判例をご紹介します。
裁判を起こしたのは、地方銀行からみずほ銀行に2007年10月にキャリア即戦力採用枠で採用された人物「甲」。

甲は、他の従業員に対する言動等に問題があり銀行側の指導でも改善が認められず、2016年3月25日の面談で退職勧奨が実施されました。結論が出ず、同年4月7日、再面談、翌8日以降自宅待機を命じ、午前8時40分過ぎと午後5時頃に上司に連絡すれば出社扱いにして賃金を支払うこと等を伝えました。☚ 有給の自宅待機命令(PMP)

約4年半後の2020年9月7日、甲に対して就労継続の意思の有無および就労可能性についての回答を命じたが、甲が回答しなかったことから、厳重注意とすることを通知。併せ再度の出社を求め、具体的な出社先および日時を連絡するよう求める旨通知した。同年11月26日付け書面で、業務上の命令を理由なく拒否し、正当な理由なく欠勤した服務規律違反として譴責処分を通知。同年12月30日付け書面により、可及的速やかな出社を命じ、出社意思の有無および出社できない場合はその理由について2021年1月15日までに連絡することを命じたが、甲が指示に応じなかったため、同年1月16日から同年3月15日まで出勤停止処分とした。同年5月27日、会社の業務命令に従わず健康状態について回答せず、出社しなかったこと等を理由として、同月28日をもって甲を懲戒解雇したもの。

甲はみずほ銀行に対して、人事部による執拗な退職強要や、5年に及ぶ自宅待機の末に懲戒解雇されたとして、みずほ銀行に対して「解雇は無効」の訴えと慰謝料1500万円を含む約3300万円の損害賠償と未払い賃金の支払いを求めたもの。

複数のソースで確認ができませんでしたが、一部メディアでは、みずほ銀行による退職勧奨は11回に及ぶとされています。

裁判官は、まず解雇については、「甲は、みずほ銀行からの再三の就労継続の意思の有無、健康状態や就労可能性について回答、出社不能の場合は理由開示という一連の命令に回答せず出社しなかった。厳重注意 ➡ 譴責 ➡ 出勤停止処分後の甲の対応に変わりはなく、出勤停止処分後、3回の就労継続の意思の有無と就労可能性の問い合わせにも回答していない。自宅待機命令は社会通念上許容される限度を超えた退職勧奨として部分的に違法であるものの、会社が先行して違法な行為をすれば、甲は、以後業務命令に従わなくてよいということにならない。業務命令違反及び欠勤について、正当な理由があるとはいえない。」として解雇を認めました。

一方で裁判官は「長期間の自宅待機命令は、通常想定し難い異常な事態」として、「退職勧奨に引き続いて自宅待機命令を受け、復帰先も提示されないまま長期間にわたり自宅待機の状態が続けられたことは、実質的にみて退職勧奨が継続していたというべき」としました。「2016年8月に甲は復帰を求めており、その時点で甲には退職の意思はなく、みずほ銀行は同年10月頃までには復帰先の具体的調整を開始すべき」としています。その上で「同年(=2016年)10月以降、2020年までの自宅待機の継続は実質的に甲に対し退職以外の選択肢を与えない状態を続けたものといえ、社会通念上許容される限度を超えた違法な退職勧奨」としました。また「みずほ銀行は復帰先検討の客観的証拠はなく、甲からの自宅待機命令の抗議や内部通報にも直ちに対応していない」「その対応は不誠実である」として、精神的苦痛に対する慰謝料は300万円と弁護士費用30万円、合計330万円の支払いを認めました。

この判決は、みずほ銀行の自宅待機命令を違法としつつも、懲戒解雇を有効と判断したものです。今年2月12日に双方の控訴が棄却されましたが、上告等がなされる予定です。最高裁の判断を待ちたいと思います。

実務に置き換えれば、会社からの退職勧奨 ➡ 本人拒絶のケースでは、元の職場での就労は避け、当面自宅待機とする事態も起こり得るかもしれませんが、自宅待機はPMPでは長くとも1か月程度だろうと考えています。
さらに言えば、退職勧奨にあたり本人が拒絶する際に、普通解雇へのエスカレーションに踏み切れない場合の退職勧奨は行わないことを勧めます。本人からの退職勧奨拒絶を受けて、配置転換を行うのであれば、退職勧奨などをせずに最初から配置転換で対応すべきでしょう。

このケースでも、他の従業員への態度に問題があり、指導しても改善されないのであれば、このプロセスをPIP(Performance Improvement Program)として書面化の上で、会社側の具体的改善指導の状況、本人の成果を記録するとともに、PIPの書面上に、PIP期間中に具体的な改善が見られない場合は、就業規則XX条に基づき普通解雇する事がある旨も予め明示しておくべきとも思います。

こういった事前のステップを十分固め、最悪の場合は普通解雇できるだけの準備を整えた上で退職勧奨に踏み切るべきだろうとは思います。PIPで解雇の法的リスクが完全に解消されるとは言いません。情報不足なので見当違いなのかもしれませんが退職勧奨に踏み切る前の準備が果たして十分だったのか?という疑問は持ちます。

以    上