年収の壁 – 見直しではなく撤廃、さらには・・・

年収の壁 – 見直しではなく撤廃、さらには・・・

先の衆議院選挙で与・野党の勢力地図が大きく変わったことが契機となり、国民民主党の主張する103万円の壁の議論が真剣に行われています。この “壁” 問題は、PMPでも過去何度も取り上げていますが、ご存じの通り、壁には他にも106万円、130万円、150万円、160万円、201万円と数多く存在します。

昨年、政府は106万円と130万円の壁にチャレンジしました。
 注:PMP News 2023年9月29日:「年収の壁」支援強化の具体策を発表。

これらの壁は何れも社会保険の壁対策でした。106万円の壁は、50人を超える企業で週所定20時間を超える社員に生ずるもので、厚生年金・健康保険の加入義務に伴い社会保険料の個人負担が発生するという壁、130万円はそれ以外の社員に生じる国民年金・国民健康保険の保険料負担の壁でした。何れも社会保険の壁ですが、政府が発表した壁対策は、106万円は、106万円を超える社員を抱える企業に対してキャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)を支給するもの、130万円は、年末近くの繁忙期に労働時間や労働日数を増やすことで130万円を “一時的” に超えた場合にのみ適用されるもので、加えて2年間の時限性がありました。

今回の103万円の壁は、昨年の政府の対応とは基本的に性格が異なると考えています。昨年の政府対応は、厚労省所管の社会保険の仕組そのものには手を付けず、現行の仕組を温存したまま、小手先の一時的かつ場当たり的とも言える対応でしかありませんでしたが、今回の103万円の壁は真っ向から現行の所得税の仕組にチャレンジするものです。相手は厚生労働省ではなく官僚の中核である財務省への切り込みですね。ここに意義があると考えます。
しかしながら、103万円の壁対策は、壁を178万円に引き上げるものです。根拠は1995年以降103万円に据え置かれている年収の壁を、1995年以降の最低賃金の引き上げ率に併せて1.73倍に引き上げるというものです。ロジックは理解できますが、壁の存在は継続します。
海外を見てみましょう。

まずアメリカとイギリスはもともと所得税は個人が対象となります。アメリカはその上で独身、既婚で共同申告と既婚で世帯主により基礎控除額が異なります。フランスの所得税の仕組には家族の要素が含まれていますが、世帯の課税所得を家族単位で分割し、家族の人数に応じて税負担が軽減されるものです。ドイツも家族の要素が入りますが、ドイツでは夫婦間での収入を平均化することで、累進課税の体系の下で収入の高い配偶者の税負担が大きく軽減できる仕組となっています。
ラフな比較論で恐縮ですが、英米仏独とも個人単位となっており、日本の配偶者などの扶養家族を含めて世帯単位で所得税を算定する仕組とは抜本的に異なるように思います。

とは言え、日本の所得税の仕組までを再構成するのは、海外の事例を参考に時間をかけて行うべきものだと思いますので、これは継続的かつ極力早急に解決すべき課題として整理しましょう。では、日本でこの機会にすぐ着手すべき改正は何でしょうか?
第3号年金の廃止ではないでしょうか?
第3号被保険者とは、厚生年金に加入している第2号被保険者に扶養されている60歳未満、年収130万円未満かつ第2号被保険者の年収の2分の1未満の配偶者のことです。第2号被保険者が配偶者の保険料も負担しているとして、保険料の個人負担なしに国民年金に加入する仕組です。(人事の方々はご存じだと思います) 

上記グラフは、総務省「労働力調査特別調査」(2001 年以前)及び総務省「労働力調査(詳細集計)」(2002 年以降)からのものです。実感としても皆捉えていることですが、共働き世帯が増加しています。

さて、第3号被保険者数の推移を見てみましょう。

第3号被保険者は平成7(1995)年度の1,220万人をピークに、令和3(2021)年度では763万人と3分の2程度に減少しています。制度上は第3号が必ずしも女性ではありませんが、実態は第3号被保険者の大半は女性が占めています。

更に、女性の第3号被保険者の年齢別割合をみれば下図の通り、30歳代以降で第3号被保険者が占める割合が増加し、30歳代後半以降は約3割を占めています。

労働市場がますますひっ迫する日本では、30歳代後半以降の層をもう一度、もちろんお一人お一人に無理のない範囲でよいので、労働市場に参加していただくという制度変更が今、求められているように思います。如何思われますか?

以    上