高年齢労働者の労働災害防止対策の動き

高年齢労働者の労働災害防止対策の動き

厚生労働省 労働政策審議会 安全衛生分科会では、高年齢就業者数の労働災害が増加しており、労働安全衛生法で定めている “中高年齢者に対する心身の条件に応じた適正な配置” の「措置内容の範囲を広げること」や、“エイジフレンドリーガイドライン(高年齢労働者の安全と健康管理のためのガイドライン)” が求める対応を企業の努力義務とし、このガイドラインの有効な実施を図ることが適当であるとの問題を提起しました。
65歳を超える高齢者の就労に取り組む企業も増加基調にあり、同分科会の見解も首肯できるところですが、一方で “エイジフレンドリーガイドライン” は殆ど周知もされておらず、「わが社の60歳以上の高年齢労働者は健康である」との理由から、何の取り組みもしていない企業が全体の48%というのが実態のようです。

分科会の討議内容をいくつかご紹介しましょう。

まずは、労災の年齢別の事故件数を見てみましょう。2023年、休業4日以上死傷年千人率による「性別・年齢層別労災発生率」のグラフです。

注:労働災害の発生状況を評価する際に、千人率という指標を用います。これは1年間の労働者1,000人あたりに発生した死傷者数の割合を示す指標で、計算式は 千人率 = 1年間の死傷者数 ÷ 1年間の平均労働者数 × 1,000 となります。

下図が示す通り、50歳代から平均を上回り、年齢とともに著しく増加基調であることが分かります。

高年齢層の千人率の大幅な上昇には、墜落・転落、転倒の千人率の上昇の影響が大きいといわれています。事故の型別では、墜落・転落は特に男性、転倒は逆に女性の増加が顕著ですね。

一般には、高年齢者の災害発生率の増加には、個人によりばらつきはあるが、業務に起因する労働災害リスクに、加齢とともに進む筋力やバランス能力等の身体機能や身体の頑健さの低下による労働災害リスクが付加されていることが大きいといわれています。
しかしながら、現行の労働安全衛生法第62条では、「事業者は、中高年齢者その他労働災害の防止上その就業に当たって特に配慮を必要とする者については、これらの者の心身の条件に応じて適正な配置を行うように努めなければならない。」との努力義務がありますが、それ以上の措置への展開は何もありません。

高年齢労働者については、安衛法第62条の定める適正な配置に留まらず、墜落・転落や転倒防止のためにも、職場環境や作業の改善の取組等を促していくことが必要であり、措置内容の範囲を広げることが適当ではないかというのが当分科会の見解となっています。そのためには、“エイジフレンドリーガイドライン” に法律上の根拠を与え、このガイドラインが求めるような対応を企業の努力義務として適切かつ有効な実施を図ることが適当ではないかとしています。

高齢者の活用促進の際には、衛生委員会や産業医とも連携して、安全な職場環境で元気で働き続ける高齢社員を出現させてください。

以    上