日本の解雇規制は国際的にみて、厳しくはないのか?
先日の自民党総裁選の折、強硬な保守論者である女性候補者から『実は日本の解雇規制は国際比較でみればそれほど厳しくはない』という意見がありました。
その根拠は、OECDの雇用保護指標(Employment Protection Legislation indicators)のようです。
これをご紹介しましょう。
何とも見づらいグラフで恐縮ですが、下図はOECDによる正社員の解雇と有期雇用者の雇用規則に関して国際比較をしたものです。
縦軸は有期雇用者、横軸は正社員、ともに数値が大きくなるほど規制が厳しく、小さくなるほど規制が緩やかとなっています。
さて日本はどこでしょう。矢印で示しましたが、アイルランドとアイスランドに挟まれたあたりです。俯瞰すれば、確かに、日本はOECD加盟国の中では解雇規制が平均よりもやや緩いところにあるようです。
女性候補者のご見解は正しいのでしょうか?
正規雇用解雇(横軸)と、一時雇用雇入れ(縦軸)の規制の強さ
この調査、もう少し詳しく見てみました。OECDは解雇に関し24の調査項目を設定しこの項目に沿って、OECD諸国の労働法の規制を調べたようです。
日本に対するOECDの項目別調査内容をチェックしてみたところ、例えば・・・
- 解雇の予告期間:雇用者は少なくとも30日前に解雇予告を行うか、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。口頭での通知は十分とされ、解雇理由の書面は求めに応じて提供される。
- 勤務期間に応じた解雇予告期間:勤務期間に応じては特に設定されておらず、勤続年数に関係なく30日間。
- 勤務期間に応じた退職金:日本では法律上、退職金の支払い義務はない。
この3つの結果を文字通りに解釈すれば、日本の解雇規制は随分と緩いという結論に帰着するのは当然です。
しかしながら、我々は実態を知っています。この上記のOECD調査結果は、労働基準法に基づくものですが、日本の解雇は労働基準法では裁けません。
実際に、能力不足の社員を30日分の賃金で解雇できるか? 誰も首肯しません。
まず日本では解雇理由が厳しくチェックされ、解雇回避努力の実施状況が何度も何度も確認されます。その上で万一解雇可能となった場合、特別退職金を用意するのが通常です。この特別退職金は、勤続年数に応じて、勤続が長いほど高くなります。PMPでは外国企業からの解雇案件の相談の際に、少なくとも勤続1年につき1か月、ミニマム3か月程度の特別退職金は用意すべきという話をしています。また、裁判となるとさらに相場が上がる傾向も観察されます。
これが実態ですが、労働基準法ほか日本の労働法にはかかる記載は一切ありません。
余談ながら、筆者がやるせなく思うのは、このOECDの調査結果を挙げて、ライバル候補者をやり込めようとした人物の職業は国会議員、立法府の最高機能を担う一員であるということです。
以 上