海外出張中の交通事故で後遺障害等級第1級 ➡ 出張を命じた企業の責任 – 東京高裁23年1月25日

海外出張中の交通事故で後遺障害等級第1級 ➡ 出張を命じた企業の責任 – 東京高裁23年1月25日

事件の概要
Xは勤務先Y1の親会社Y2に出向、Y2の東京本社に勤務中、Y2の業務にため1週間マレーシアに出張。Y2の孫会社のマレーシア法人のマレーシア人従業員運転の乗用車に同乗したところ、交通事故に遭遇。このマレーシア人は死亡、Xも多発外傷・左太腿切断等の傷害を負い、後遺障害等級第1級という重度の障害が残った。

Xは雇用契約の債務不履行(安全配慮義務違反)、民法715条の使用者責任、自動車損害賠償保障法の運行供用者責任として総額 2億2,456万円の支払いを求めた。
なお、東京地裁は請求をすべて棄却している。

高裁の判断
1.準拠法は日本法である。この点が通則法 1条によりマレーシア法を準拠法とした地裁判断と異なる。東京高裁は通則法 20条を判断の根拠としている。

注1)通則法 第17条(不法行為)
不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は、加害行為の結果が発生した地の法による。ただし、その地における結果の発生が通常予見することのできないものであったときは、加害行為が行われた地の法による。

注2)通則法 第20条(明らかにより密接な関係がある地がある場合の例外)
前三条の規定にかかわらず、不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は、不法行為の当時において当事者が法を同じくする地に常居所を有していたこと、当事者間の契約に基づく義務に違反して不法行為が行われたことその他の事情に照らして、明らかに前三条の規定により適用すべき法の属する地よりも密接な関係がある他の地があるときは、当該他の地の法による。

2.交通事故を起こした車は自賠法3条の適用要件を満たさず、運行供用者責任は負わない
3.交通事故はこのマレーシア人従業員の運転手の過失によるものだが、運転行為はY2の事業の執行について行われたもので、「民法(使用者等の責任)第715条  ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。」により使用者責任が認められる。ただし、Y1はこれを負わない。
4.Y1・Y2に安全配慮義務違反はあったとは認められない。
5.Y1が負う損害賠償額は 1億6,301万円とする。

本件は通則法の17条・20条の解釈問題だと思います。
高裁判断を参考とすれば、例えば海外の現地法人に出張し、海外現法の同僚あるいは現地で雇用された方の運転する車で交通事故が起きた場合などは、民法 715条の使用者責任が認められることになるという点については人事諸氏は注意を払う必要があります。

閑話休題
なお、本論から外れると判断、記載本文から外しましたが、この裁判では、Xの妻も、甚大な責任を被ったとしてY1・Y2に対して使用者責任、運行供用者責任に基づき 550万円の支払いを求めました。東京高裁はXの妻に対する使用者責任、運行供用者責任はともにないとしましたが、損害賠償責任を認め 220万円の支払いとしています。

以    上