2024年度の労働基準監督署の動き – 「厚生労働省 令和6年度地方労働行政運営方針」を参考に

2024年度の労働基準監督署の動き – 「厚生労働省 令和6年度地方労働行政運営方針」を参考に

今年度も第一四半期が終了するタイミングですが、厚生労働省本省から各都道府県労働局長宛に発信された「令和6年度地方労働行政運営方針」に基づいて、コメントを発信します。
本方針の全文は こちら からご参照ください。

冒頭近辺に、同一労働同一賃金に関するくだりがあります。同一労働同一賃金問題は根拠法であるパート・有期雇用労働法からすれば本来は都道府県労働局雇均部あるいは安定部等の所管ですが、ここに労働基準監督署を組み込むという “荒業” を仕掛けました。

PMP Newsでも以下発信しています。ご参照ください。
2022年12月19日付: 「同一労働同一賃金に労働基準監督署が乗り出す!?」
2023年  9月  8日付: 「同一労働同一賃金への労基署の関与のその後について」                                 

今回の方針でも「監督署による定期監督等において、同一労働同一賃金に関する確認を行い、短時間労働者、有期雇用労働者又は派遣労働者の待遇等の状況について企業から情報提供を受けることにより、雇均部(室)又は安定部等による効率的な報告徴収又は指導監督を行い、是正指導の実効性を高めるとともに、基本給・賞与について正社員との待遇差がある理由の説明が不十分な企業に対し、監督署から点検要請を集中的に実施することや、支援策の周知を行うことにより、企業の自主的な取組を促すことで、同一労働同一賃金の遵守徹底を図る。」とあります。

さて、一連の司法判断では、基本給・賞与についてはこの方針の前提となったであろう厚生労働省による同一労働同一賃金ガイドライン(正しくは2018年12 月 28 日付「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」)についての行政指導とは異なる結論が相次いでいます。もともとパート・有期雇用労働法では同一労働同一賃金において、労働条件格差の不合理性の証明責任は労働者側にあります。この方針でも、そのあたりについては配慮を示して、“基本給・賞与について正社員との待遇差がある理由の説明が不十分な企業”という記載によって、パート・有期雇用労働法の同一労働同一賃金の一丁目一番地である第8条「不合理な待遇の禁止」ではなく、同法第14条「事業主が講ずる措置の内容等の説明」に結び付けようとしている意図までが明らかとなっています。加えて第14条は第8条には適用されない、都道府県労働局長による助言指導勧告の対象でもあります。司法判断に敬意を払い、早急にガイドラインの見直しを図るべきと思いますが、行政はあくまで、本来企業の裁量で決定されるべき基本給や賞与について、どこまでも介入しようという姿勢は今のところは変わっていない様です。

次に、今年度運営方針では『安全で健康に働くことができる環境づくり』として順に以下のように発信されています。

まずは、従前と同様の “長時間労働の抑制に向けた監督指導の徹底” です。(以下太字はPMPによるもの)
「長時間労働の抑制及び過重労働による健康障害を防止するため、各種情報から時間外・休日労働時間数が1か月当たり80 時間を超えていると考えられる事業場及び長時間にわたる過重な労働による過労死等に係る労災請求が行われた事業場に対する監督指導を引き続き実施する。」とあります。従来同様、月80時間の時間外・休日労働をまずはチェックしましょう。
その中で、注意すべき部分は「重大・悪質な事案に対しては、司法処分も含め厳正に対処する。」という記載です。労働新聞5月2日号では、“労働基準監督署が書類送検の対象とする事業場を拡大した可能性がある” としており、“同様の法違反を繰り返す事業場を躊躇なく書類送検していく方針” と続けています。さらには “過去に重大・悪質な法違反が認められた事業場に対して確認を行い、遵法状況の定着がみられないケースについて、行政指導ではなく司法警察権限行使に移る。是正勧告を受け改善を実施した事業場が、再度同じ項目で違反状態に陥った場合、労基署は今後、是正勧告を挟まず送検するとみられる。” と結んでいます。

読者諸氏の各企業はいずれも、重大・悪質な法違反とは無縁であることは重々承知していますが、これまで労基署の送検事案件数の動向については当面は注視するつもりです。

各社、労働時間管理の基本は、やはり「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」です。この運営方針でも「監督指導において同ガイドラインに基づいて労働時間管理が行われているか確認し、賃金不払残業が認められた場合には、その是正を指導する。」とあります。

続けて「平日夜間、土日・祝日に実施している『労働条件相談ほっとライン』に寄せられた情報や、インターネット情報監視により収集された情報に基づき、必要に応じて監督指導を実施する。」とあります。このあたりにも注意を払う必要があると思われます。

続いて、特に以下3つの事項について特別な発信があります。

まず、『外国人労働者』
「技能実習生等の外国人労働者については、労働基準関係法令違反の疑いがある事業場に対して重点的に監督指導を実施し、重大・悪質な労働基準関係法令違反が認められる事案に対しては、司法処分を含め厳正に対処する。また、出入国在留管理機関及び外国人技能実習機構との相互通報制度を確実に運用する。」として、「特に、技能実習生に対する労働搾取目的の人身取引が疑われる事案については、『人身取引取締りマニュアル』を参考にしつつ、外国人技能実習機構との合同監督・調査や関係機関との連携を着実に実施し、労働基準関係法令違反が認められ、悪質性が認められるもの等については、司法処分を含め厳正に対処する。」とのことです。

次は、『自動車運転者』
「違法な長時間労働等が疑われる事業場に対し的確に監督指導を実施するなどの対応を行う。」とのこと。

最後に、『障害者である労働者』
「虐待防止の観点も含め、障害者である労働者の法定労働条件の履行確保を図るため、関係機関との連携を深め、積極的な情報の共有を行うとともに、障害者である労働者を使用する事業主に対する啓発・指導に努め、問題事案の発生防止及び早期是正を図る。」としています。

また11月にも施行が予定されているフリーランスについても、「請負契約等のフリーランスの契約の形式や名称にかかわらず、その労働の実態を個別に勘案した結果、労働基準法等の労働者に該当し、法違反が認められると判断した場合には、監督署において引き続き厳正に監督指導を行う」とし、この場合は続けて「被用者保険の更なる適用促進を図るため、日本年金機構年金事務所及び労働局労働保険適用徴収部門への情報提供を徹底する。」としています。今秋あたりから、フリーランス関連でもこれまで以上に注意を払う必要もあるように思います。

以    上