転居転勤のない正社員の住宅手当の廃止による格差是正策には会社側の勝訴と – 同一労働同一賃金
5月30日の東京地方裁判所の判決をお知らせします。
PMP Newsでも複数回取り上げている、同一労働同一賃金に関する日本郵便の争いの新しい動きです。
ご存じの通り、同一労働同一賃金に関連する日本郵政での争いは全国各地で展開されましたが、いわゆる日本郵便3事件と名付けられた最高裁判決により、扶養手当、年末年始勤務手当、有給の病気休暇制度、夏期冬期及び祝日給手当については、これらの趣旨が原告である有期契約社員にも当てはまるとして、 格差は不合理であり違法とする原告勝訴の判決で決着をしています。住宅手当については、東京高裁・大阪高裁の2つで争われましたが、何れも、最高裁が上告を受理しなかったため、高裁での不合理とする判決が確定しています。
これらを受けて、日本郵便では、詳細な対応策を展開しました。
・正社員の夏期・冬期の有給休暇をそれぞれ3日を1日に減らすと同時に3,400円の給与の引上げを実施。
・有給の病気休暇の条件は無期転換後の契約社員に期間を30日に限定した上で新たに付与。
・年末年始手当については、正社員の年末手当は廃止し、年始手当については有期雇用者に正社員の8割を支給。
・扶養手当は無期転換後の契約社員に正社員の8割を支給。
今回の住宅手当をめぐる争いは、対応策の一環として一部正社員への住宅手当を廃止した動きを受けてのものです。
日本郵便は、転居転勤のない一般職(正社員)に対して支給していた住宅手当(賃貸の場合は最高額で月額 27,000円)を正規・不正規間の格差是正のため廃止すると決定。また一般職への激変緩和措置としては、10年にわたり年10%ずつの減額とし、その間、毎年受給額は減額するものの住宅手当の支給を行うとしました。
訴えは、もともと住宅手当の支給対象ではない時給契約社員が起こしたものです。
東京地裁は、正規・非正規間で労働条件の相違が不合理であった場合、旧労働契約法第20条(PMP: 現在はパート・有期労働法第8条から第10条に引き継がれています)は労働条件の切り下げにより解消する事を直ちには否定しないと判断しました。また会社側の経過措置を賃金減額の緩和が目的と評価した上で、もともとも住宅手当の支給対象ではない時給制契約社員にはこの激変緩和措置は妥当しないとしています。
同一労働同一賃金の司法判断を受けて取られた日本郵便の対応には、今回の様に正社員の処遇を引き下げる措置が含まれていたため、世間では厳しい批判の声も上がりましたが、日本版同一労働同一賃金は、正規・非正規間の労働条件の格差の合理性が争点となるため、その解消には正社員と同じ労働条件を非正規社員に付与するという単純な解決策が浮かびがちになります。今回の東京地裁の判決は、かかる単純な思考に警鐘を鳴らし、一地方裁判所の見解ではあるものの、法が定める日本版同一労働同一賃金を厳しい経営環境の中で如何に実現していくのか、という観点で各社参考にされたら良いのではと考えています。
以 上