フレックスタイムや裁量労働以外の弾力的な始業・終業時刻の定め

フレックスタイムや裁量労働以外の弾力的な始業・終業時刻の定め

多様な働き方の工夫がより一層求められています。

フレックスタイムや裁量労働などのみなし労働時間制の対象者は、それぞれの事情に応じた弾力的な始業・終業時刻の決定が可能ですが、それらの適用を受けられる労働者は、厚生労働省調査によれば、フレックスタイム適用者は10.6%、みなし労働時間制の適用者は8.9%。合計でも日本の労働者の19.5%でしかありません。この調査結果、対象を常用労働者としか記載しておらず、労働時間規制の適用除外となる管理監督者が含まれているかが不明なのですが、それを考慮しても実はかなりの数の労働者の労働時間の仕組みは、俗にいう9時-5時タイプの画一的に定められている始業・終業時刻の適用を受けているのだろうと思われます。これは外資系企業やIT産業などの顧客が比較的多いPMPでも、この厚労省調査ほどではないものの、フレックスタイムやみなし労働の対象社員は思いのほか少ないという実感を持っています。

注:掲記計数は、厚生労働省の令和5年就労条件総合調査の概況を出展としています。

常用労働者 30 人以上を雇用する企業のうちから、産業・企業規模別に層化して無作為に抽出した約 6,400 社を対象とし、有効回答数 3,768 からの分析となります。
とは言え、世の中はより多様な働き方を求める方向で動いています。

一方で、PMP宛の各社からの問い合わせを振り返ると、特に人事の担当者各位は、例えば育児短時間の適用者などから切実な要望を聞いても、自社の就業規則を片手に、どこまで弾力的な対応ができるのか悩まれる事が珍しくない様です。

PMPの標準形就業規則では、労働時間の弾力的運用に幅広く活用できるように、「会社は業務の都合により始業・終業時刻を繰上げまたは繰り下げを行うことや休憩時間を変更することがある。」という文言を必ず記載しています。懇意にしている多くの人事部長からはこの文言を使って、人事部長判断で始業・終業時刻を弾力的に変えることができるので便利ですねと言う感想を頂いていますが、一方でこの条項の、“業務の都合により” という記載から、社員一人一人の事情による、始業・終業時刻の繰り上げ繰り下げには対応できないと解釈されている担当者や現場の責任者も少なくないようにも思います。

さて、この問題。実は厚生労働省では対応済のものです。
ご照会するのは2つの厚生労働省通達です。この内のいずれかを根拠としても、就業規則を一部改訂し、フレックスタイムやみなし労働時間制を改めて導入せずとも、ある程度の弾力的な始業・終業時刻の決定は可能となります。

まずは通達をご参照ください。

厚生労働省通達、平11.3.31基発168号には “始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項” として以下の記載があります。“当該労働者に適用される労働時間等に関する具体的な条件を明示しなければならないこと。なお、当該明示すべき事項の内容が膨大なものとなる場合においては、労働者の利便性をも考慮し、所定労働時間を超える労働の有無以外の事項については、勤務の種類ごとの始業及び終業の時刻、休日等に関する考え方を示した上、当該労働者に適用される就業規則上の関係条項名を網羅的に示すことで足りるものであること。” としています。

またここからさらに遡ること12年、昭和63年の旧労働省通達 基発第150号では、“始業・終業時刻等が勤務態様に等により異なる場合” として、“(略)しかしながらパートタイム労働者のうち本人希望により勤務態様、職種別ごとに始業・終業の時刻を画一的に定めないこととする者については、就業規則には、基本となる始業及び終業の時刻を定めるとともに、具体的には個別の労働契約等で定める旨の委任規定を設けることで差し支えない。” としています。

注:太字PMPによるもの

これら通達を根拠として、弾力的な始業・終業時刻の決定を社員からの事前の希望により実施する事も可能となります。実際は “社員が希望して会社が認めた場合” という書き方となると思いますが・・・

例で挙げた育児短時間勤務は、法令で定める6時間の定めが最も多いようです。その育児短時間勤務は3歳までを、また子の看護休暇は小学校就学始期までという現行の決まりを、それぞれ延長しようとする法改正の動きもあります。
かかる育児関連の延長の動きや、男性の育児への一層の参加度合いの引き上げ(ようやくの感がありますね)を踏まえれば、社員一人一人がそれぞれの事情に合わせて、今日は6
時間ですが、明日は7時間でもOKです という働き方もできるような弾力的措置が企業で用意できればと思います。

※ 育児短時間の場合、2歳までは時短勤務中の賃金の1割に相当する額の給付金を支給する案もあるという声が聞こえそうですが、それ以降はかかる給付金なしに時短相当の給与減額となります。
どうせこれも延長するだろう??と思われるかもしれませんが、
Mother Trackの議論や、ヨーロッパでは “育児” の特例は1年が普通、長くとも2年であることを考えれば、少子化対応で育児支援は最優先とはいえ、かかる特別な勤務を国が奨励するのは2歳までと考えるのが合理的であるように思います。

就業規則は全ての労働者に適用される労働条件を画一的に定めるものとされており、会社はこの就業規則をそのまま全ての社員に適用する事が公平・公正な労務管理であるとの考え方があることは筆者も承知しています。対面を必要とする職種には適用できないことを理由に、コロナ禍にやむを得ず導入したテレワークをポストコロナの今、廃止した企業も少なくありません。

とはいえ、少子化・高齢化による労働市場のひっ迫が収まるどころかますます深刻となる日本の労働市場を展望すれば、多様な働き方を許容することは、必要な労働力を確保するという点でも必要な措置の筈です。また、この売り手市場の日本にあって、働く側も、育児に代表されるように自分のライフステージに応じて働き方を変えたいという意識が強くなっているように思います。

企業は、今こそ、こういった労働市場の変化に応じた対応が求められているように思います。
PMPでも、Compliance対応と同時に、これまで以上に、こういう動きに対応できるような就業規則の工夫をさらに続けていこうと考えています。

以    上