国家公務員の“36協定違反”の実態 – 人事院発表から
ご存じの通り、国家公務員には労働基準法は適用されません。したがって、今回のPMP Newsの標題そのものが正確ではありません。
注:国家公務員法附則第16条では「労働組合法、労働関係調整法、労働基準法、(中略)最労働安全衛生法(中略)は、第二条の一般職に属する職員には、これを適用しない」と定めてられています。また、労働契約法第22条1項でも、「この法律は、国家公務員および地方公務員については、適用しない」との規定があります。
しかしながら、国家公務員には「超過勤務の上限等に関する措置」という残業規制があります。ご紹介しましょう。
① 原則として1箇月について45時間かつ1年について360時間の範囲内で、必要最小限の超過勤務を命ずるものとする。
② ただし、他律的な業務の比重の高い部署に勤務する職員に対しては、 1)1箇月について100時間未満、 2)2~6箇月平均80時間以下、 3)1年について720時間の範囲、 4)月45時間超は年6箇月までの範囲内という4種類の上限規制があり、その範囲内で必要最小限の超過勤務を命ずるものとする。
③ 「他律的業務」とは、業務量、業務の実施時期その他の業務の遂行に関する事項を自ら決定することが困難な業務であり、具体的には国会関係、国際関係、法令協議、予算折衝等に従事するなど、業務の量や時期が各府省の枠を超えて他律的に決まる比重が高い部署が該当し得る。
省各庁の長が認める業務とされています。
④ さらに国家公務員全般に、特例業務と言う考え方があり、特例業務に従事する職員又は従事していた職員に、上限を超えて超過勤務を命ずる必要がある場合には、超過勤務命令の上限は適用しない。
この特例業務とは、大規模災害への対処、重要な政策に関する法律の立案、他国又は国際機関との重要な交渉その他の重要な業務であって特に緊急に処理することを要するものとされています。
かなり乱暴なですが、筆者成りに纏めると以下のようになるでしょう。
① 国家公務員の残業の原則は36協定と同様の内容。
② ただし“他律的業務”については特別条項付きの36協定と同様の1か月、2から6か月、1年間、さらに1年間に6回が限度という4種類の縛りがあるといえる。
③ 最後に、労働基準法第33条「災害等による臨時の必要がある場合の時間外労働等」と同じような“36協定の特例”が国家公務員の“特例業務”として認められており、この“特例業務”の範囲は労働基準法第33条に比べると、実際はもう少し広く弾力的に活用されているのではないかと思われる。
2022年度の国家公務員の残業実態の調査結果を人事院が公表しました。
いかにも残業が多そうな他律部署で、先ほどご紹介した“特別条項”の4つの上限規制のうち一つでも違反のあった職員数の割合は以下の通りです。
一方で他律部署以外(自律部署という)は“特別条項なしの36協定”となりますが、この36協定違反は以下の通りです。
最後に、厚生労働省の2022年の実態もご紹介しましょう。
残業の上限を超えた職員の割合は
① 他律部署(“特別条項”適用先)では、本府省職のみでは42.3%、本府省職員を含む全全体では19.3%が上限超過
② 自立部署(“特別条項のない36協定”)では、本府省職のみでは28.8%、本府省職員を含む全体では3.9%が上限超過
となっていました。
民間企業では36協定違反は労働基準法で6か月以下の懲役または30万円以下の罰金という罰則規定があります。労働基準監督署の立ち入り検査で36協定違反の事実が確認されると、即時是正の指導を受けるはずです。一方で国家公務員には労働基準法が適用されないため、労働基準法の36協定と同様の残業規制に国家公務員が違反したとしても、民間企業のような罰則や行政指導の対象にはならないのでしょうが・・・。
ご関心ある方は、3月5日付人事院 「上限を超えて超過勤務を命ぜられた職員の割合等(令和3年度)について」 をご参照ください。
以 上