同一労働同一賃金問題2020年10月13日・15日の最高裁の判断を検証する – その2
前回に続き、同一労働同一賃金に関する最高裁の判断について、実務上の留意点を中心に考えてみたいと思います。
今回は10月15日の日本郵便事件を取り上げます。日本郵便と纏めましたが、日本郵便の、東京・大阪・佐賀、それぞれの争いについて、東京高裁、大阪高裁、福岡高裁の判断に対する最高裁の結論となっています。
全体を纏めると、以下のすべての項目について、同一労働同一賃金の点では不合理性を認める=会社敗訴という結論となってます。
1.年末年始手当 正社員は12月29日から1月3日の勤務に対して支給
2.病気休暇 正社員は私傷病休暇の場合、90日間の有給の休暇(有期契約社員は無給で10日間)
3.夏期冬期休暇 正社員は6月から9月、10月から翌年3月までに各3日付与
4.祝日給 正社員は年始にも祝日給が支給
5.扶養手当 正社員は扶養手当が支給
平成30年の最高裁判決、長澤運輸事件とハマキョ―レックス事件では、同一労働同一賃金を判断する際には、それぞれの賃金項目ごとに趣旨を個別に考慮すべきものとしました。今回の日本郵便事件では、福利厚生に代表される賃金以外の労働条件についても個別に判断することとなりました。
その上で、細かく見ていきましょう。
1.年末年始勤務手当は、「所定の期間(筆者注:12月29日から1月3日)において実際に勤務したこと自体を支給要件」とし、「支給額も、実際に勤務した時期と時間に応じて一律」であり、「手当の性質や支給要件及び支給金額に照らせば、これを支給する事とした趣旨は、本件契約社員にも妥当する」と結論付けました。
2.病気休暇は、「継続的な雇用を確保するという目的」を認めるものの、「時給契約社員についても、相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば」「私傷病による有給の病気休暇を与える事とした趣旨は妥当する」との結論でした。ただし、正社員と時給契約社員の職務の内容や当該職務の内容・配置の変更の範囲、その他の事情から相応の相違がある事は認めており、「私傷病の病気休暇の日数に相違を設ける事はともかく」とし「有給とするか無給とするかにつき労働条件の相違がある事は不合理である」と続けています。
この後段の裁判官のコメントは、これまでの色々な判例解説では取り上げられていないようですが、労務管理の実務の観点からは休職日数に差を設ける事の妥当性の根拠として活用できるように思います。
3.夏期冬期休暇は「取得の可否や取得し得る日数は上記正社員の勤続期間の長さに応じて定まるものとはされていない」とした上で、時給契約社員も業務の繁閑に関わらない勤務が見込まれていることから「夏期冬期休暇を与える趣旨は上記時給契約社員にも妥当する」と結論付けています。
4.祝日給は、上記1.の年末年始勤務手当と混同しそうになりますが、同じ年始期間ですが異なる制度のようです。郵便局では年始期間を特別休暇と位置づけ正社員のみに付与します。これは1月1日の国民の祝日に加えて、1月2日と3日を休日と定める多くの企業と同様の規定のように思われます。その上で、年始の繁忙期に就労する正社員に対してのみ、祝日労働の割増賃金を支給していました、これに対して「勤務の代償として祝日給を支給する趣旨は、本件契約社員にも妥当する」としました。
筆者注:筆者には郵便局で正社員には年始時期は、年末年始勤務手当と祝日割増手当が二重に支給されているのではないかと思えてなりません。一方で同様に年賀状を担当する契約社員には一切支給されないのであれば、やはり不公平のように思えてなりません。
5.扶養手当は、支給する企業は多いように思いますので注意喚起すべき事項だと思います。扶養手当の意義として、長期継続勤務の期待から、「生活保障や福利厚生を図り、扶養親族のある者生活設計を容易にさせる事を通じて、その継続的な雇用を確保する」という事を認めています。しかしながら、この目的に照らせば、「契約社員にも、扶養親族があり、かつ相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば」「扶養手当を支給する事とした趣旨は妥当する」と結論付けています。
今回、それぞれの手当や福利厚生ごとに最高裁の判断を検証しましたが、多くの企業にとって頭の痛いのは、
① 家族手当のような職務内容とは関連性が希薄で、生活保障や長期勤続の奨励を目的とする手当
② 勤続年数に関わらず正社員であれば一律に付与される福利厚生制度
については、再度検証する必要があるように思います。
次回は同一労働同一賃金についての10月13日と15日の最高裁判断全体を踏まえて、労務管理上注意すべき事項を纏めてみたいと思います。
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以 上