有給休暇の実務
– 改正労基法・改正安衛法 –
年次有給休暇に関する今回の労基法改正を一言で纏めれば「付与日数が10日以上である労働者を対象に年5日は使用者に時季指定して取得させる義務が課される」ようになったと言う事になります。この年5日は ①労働者が時季指定した年休 ②計画付与 ③使用者に時季指定された年休の組み合わせで良いとされています。したがって、実務上では各社員の有給休暇取得状況を把握し、1年間で確実に5日間の有給休暇を全員が取得するように会社が管理しなければなりません。とは言え、期限1年のギリギリになっても対応できない場合もあるかもしれませんので、お勧めは人事が6か月目と9か月目の2回にわたり各社員の有給休暇取得状況を確認し、早めに人事から現場の対象社員と上司に連絡をして年次有給休暇の取得を促す管理手法だと思います。
さて今回の法改正では、実務上、いくつかの注意事項があります。
1. 使用者の時季指定に際して、半休はOKだが、時間単位年休はNGである。注意すべきは時間単位年休については労働者が自ら時季指定した場合も5日の対象から外すという解釈となっている点。早くも子育てを抱え時間単位年休を積極的に活用している社員からはこの厚労省解釈を疑問視する声が出ていますが、、、、
2. 前年度から繰り越された年休との関係については、「使用者の義務は実際に年次有給休暇を取得させる事にある」とされ、時季指定した年休が繰り越し分であるか、または今年度付与分であるかは問わないとしている。格段の定めがなければ通常は繰り越し分からとするのが自然体だとは思います。
3. 使用者が時季指定した休暇日に労働者が出勤した場合は、使用者の時季指定権が行使されたとは認められないとしています。ただし、計画付与の場合は「計画的付与によって労働者の年休の時季が指定された場合は、労働者の時季指定権及び使用者の時季変更権はともに行使できない(昭63.3.14基発第150号)」ため、労働者が出勤したとしても有給休暇を取得したものと解釈されています。前者が使用者の一方的な権利行使であるのに対して後者、計画付与は労使間合意である事からの取り扱いの違いなのでしょうか?
4. 年5日を超える使用者の時季指定権については、「認められない」との厚労省の見解。
5. 育児休業から復帰した社員の取り扱いについては、実務上、復帰後の出勤日数から5日間の有給休暇の取得が難しい場面があると想像されるが、厚労省見解は「残りの期間における労働日が、使用者が時季指定すべき年次有給休暇の残日数より少ない場合」は「その限りでない」としている。要は復帰後5日の年休を取得させなければならないが、復帰後の労働日が6日間の場合は、
使用者は5日間時季指定しなければならないという厚労省のお達しである。ただし、1年の途中で退職してしまった社員や休職してしまった社員については、今のところ通達等はないものの、かかる場合まで使用者が取得させるのは無理だとは思う。
6. 使用者の時季指定については、改正労基則24条の6の第1項で、時季について労働者の意見を聞き、第2項で、その意見を尊重する(努力義務)とされている事にも注意しよう。
7. 導入済の特別休暇との関係について。解釈通達によれば「各社が独自に導入している有給の特別休暇は5日の対象外となる」とされる。また、今回を機にこの特別休暇を廃止し年次有給休暇に振り替えることは法の趣旨に沿わず、労働条件の不利益変更の法理からも注意しなければならないと思われる。とは言え、かかる特別休暇を廃止し、これを年次有給休暇に上乗せした上で、労使協定による計画付与を導入する等の工夫の余地は十分にあると思う。
有給休暇は労基法で定める就業規則の絶対的記載事項の一つであるため、このタイミングで就業規則の変更が必要です。
就業規則の記載事例としては
「当該年度の有給休暇の付与日数が10日以上の社員に対して、会社は有給休暇の付与日から1年以内に当該年休のうち5日を限度として、社員の意見を聴取しその意見を尊重した上で時季を指定することにより付与することがある」という記載となります。
また、一斉付与日を設定し、年度途中に入社する社員にも入社月に応じて年次有給休暇を付与するルールのある企業では、上記に続いて「有給休暇の年度途中に入社した社員については、入社初年度と2年度目に限り、両年度の月数を合算した期間(履行期間)に応じて、履行期間÷12か月×5日間の日単位で切り上げた日数を限度として当該年休を履行期間内に時季を指定することがある」という記載になります。
一見面倒なのは、年次有給休暇管理簿の作成。3年間の保存義務もあります。都内の所轄労基署の説明会では、実際に帳簿調整のようなニュアンスだったという参加者の声を聞いたが、時季、日数及基準日を労働者ごとに明らかにした書類を電子機器を用いて磁気ディスク、磁気テープ、光ディスク等による調整も問題ないとされている。労働時間管理システムの多くは有給休暇管理も内蔵されていると思われ、この活用で十分対応できると思います。
最後に、罰則は労働者一人につき30万円となるため、人事はこの罰則を示すことで各現場の管理者に本改訂の徹底をお願いすればよいでしょう。