長澤運輸・ハマキョウレックスの最高裁判決 1/3長澤運輸事件

長澤運輸・ハマキョウレックスの最高裁判決 1/3
長澤運輸事件

6月1日、二つの労働事件の最高裁の判断が出ました。あまり報道されてはいませんが、双方の原告は同じ労働組合に加入しており、また判決日も裁判官も同じです。
時系列ではハマキョウレックス判決の2時間後に長澤運輸判決の順番で、長澤運輸の判決文中にハマキョウレックスでの見解がすでに引用されているという関係にあります。
各メディア等でいろいろな報道がなされていますが、判決文に沿ってまずは忠実にこの判決の意味をとらえてみたいと思います。
争点は労働契約法第20条で禁止されている有期雇用者と無期雇用者の労働条件の相違が不合理なものと認められるかですが、不合理性の検討に際して最高裁は4つの観点から検討しています。

1. 労契法20条は、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲、その他の事情の違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定であると解するという事(均衡待遇)

2. 労契法20条で言う“相違”は、期間の定めの有無に関連して生じたものであると解するという事

3. 労契法20条で言う“不合理と認められる“の検証には、当該職務の内容及び配置の変更の範囲およびこれらに関する事情に限定せず、その他の事情までも検討しなければならない。この場合、当該有期雇用者が定年後に再雇用された者である事はその他の事情として考慮すべきとした事

4. 有期・無期雇用者の労働条件の相違が不合理と認められるか否かを判断するにあたっては、両者の賃金総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきである事

その上で、最高裁の判断となりますが、ここでは、定年再雇用者の処遇の決定に大きな影響を与える基本給、賞与に関する最高裁判断について記述し、精勤手当、住宅手当、家族手当、超勤手当については次号ハマキョウレックス事件2/3で一緒に論評することとします。

いわゆる“基本給”について、ここでは正社員が、基本給(同じ基本給という用語で混乱するが、この会社の用語なので寛容頂きたい)・能率給・職務給に対して、有期雇用者は基本賃金・歩合給と賃金構成が異なるが対応するものであるとしたうえで、さらに基本賃金が固定額支給である点に注目して、この基本賃金が定年到達直前の正社員時代の基本給を上回っているとしている。
能率給と歩合給を労務の成果に対する賃金であると位置づけ、歩合給の係数は能率給の係数の約2倍から約3倍に設定されているとしている。有期雇用者に対して、職務給を支給しない代わりに、基本賃金>基本給、歩合給の係数>能率給の係数の工夫を認め、基本給+能率給+職務給(正社員)と基本賃金+歩合給(有期雇用者)の合計額の比較では有期雇用者は正社員時代の10%・12%・2%の減額にとどまるとしています。
加えて、有期雇用者が定年再雇用者であることからの老齢厚生年金の受給の可能性にも触れ、報酬比例部分の支給開始までの調整給(月額2万円)の支給も評価しました。
その上で、正社員に基本給・能率給・職務給、有期雇用者に基本賃金・歩合給という労働条件の相違は不合理ではないと結論付けました。
賞与については、賞与は一時金であり、労務の対価の後払い、功労報償、生活費の補助、労働者の意欲向上等多様な趣旨を含み得るとした上で、有期雇用者が定年再雇用者であり

1. 定年退職時に退職金支給済 
2. 老齢厚生年金の受給予定 
3. 老齢厚生年金の報酬比例部分支給までは調整給支給
4. 年収ベースでは定年退職前の79%程度を想定から、正社員に支給される賞与が有期雇用者に支給されないのは不合理ではないと結論付けました。

長澤運輸事件の実務上の意味を考えると以下を考慮すべきと考えます。

1. 労契法20条の有期雇用者の均衡待遇を考える際に、定年再雇用の有期雇用者については、“定年再雇用”というその他の事情を考慮することができるという点は大きい。
2. しかしながら、PMPで知る限りの定年再雇用者の年収は定年前の8割という水準ではなく、6-7割程度、厳しいところでは5割程度という事例が散見される。
その他の事情を考慮しても、どこまでの差が不合理とは認められないかという疑問は解消されない。
さらに、高裁で言及された「定年後も引き続いて雇用されるにあたり、その賃金が引き下げられるのが通例であることは、公知の事実である」という点は最高裁は触れていないという点にも注意する必要がある。
3. その上で、正社員の給与体系と定年再雇用者の給与体系を再度見直し、“職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲”の観点に加えて、定年再雇用という“その他の事情”について、さらに具体的に各社なりの事情を整理した上で、不合理とならない程度の均衡待遇を実現しなければならない。少なくとも、定年前の6-7割程度の年収水準ありきの再雇用制度は見直す必要があるだろう。

閑話休題。PMPクライアントには外国企業も多いが、特に米系の本社からの派遣の経営者、人事部長からすれば、この最高裁判決そのものがおかしいと言う。
米国では年齢差別禁止法があり、そもそも定年退職制度が違法。
加えて、60歳になると賃金が低下しても不合理ではないという労契法20条の規定そのものがDiscrimination=差別であるとしている。最高裁判決で言及している年金の受給が会社の賃金体系に影響を与えることもナンセンスであると結論付けている。
米国を含むグローバルな事業展開を志向している企業では、このような視点も注目していただきたい。