同一労働同一賃金その2 ガイドラインの使い方

同一労働同一賃金その2 
ガイドラインの使い方

同一労働同一賃金の実務対応のため、短時間有期雇用労働法(以下「同法」)第15条第1項では“事業主が講ずべき雇用管理の改善に関する措置“の”適切かつ有効な実施を図るために必要な指針を定める“と規定しています。それを受けて平成30年12月28日厚労省告示第430号(https://www.mhlw.go.jp/content/11650000/000469932.pdf  以後「告示」)が出されています。

告示の「第3」では、短時間・有期雇用労働者の基本給に始まり賞与や役職手当・精皆勤手当・通勤手当/出張旅費などの諸手当、慶弔休暇や病気休職などの福利厚生、教育訓練までの広範囲な処遇項目について、具体的事例を挙げて同一労働同一賃金の点で問題となるか、あるいは問題とならないかを懇切丁寧に説明しています。

例えば、法定外の休暇。ガイドラインには、「正社員に勤続期間に応じて法定を超える休暇を認める場合、有期雇用者や短時間労働者にも同一の付与をしなければならない」と記載されています。わかりやすく誤解の余地もない明快な結論ですね。これまで、正社員には法定を上回る休暇日数を認めていたが、契約社員には労基法通りの最低限の休暇日数しか付与していなかった企業などは、さっそく自社の契約社員の有給休暇を正社員並みの水準へと着手しようとしているところもあるようです。

しかしながら、この告示の先頭(3ページ目)部分、「第2基本的考え方」には、「事業主が、第3から第5(筆者:第3は短時間・有期雇用労働者、第4は派遣労働者の派遣先均等均衡方式、第5は派遣労働者の労使協定方式について)までに記載された原則となる考え方等に反した場合」「当該待遇の相違が不合理と認められる等の可能性がある。」としています。ガイドラインは、詳細にわたり明快に、不合理である事例と不合理とは認められない事例をあげていますが、これらは実は厚労省によれば、“不合理と認められる可能性“(ゴシック体は筆者)でしかないという事です。

単純明快であるため、ガイドライン各論の印象が強く、それが独り歩きしている感があります。またこれまでの労務専門の雑誌や同一労働同一賃金セミナーでも個別ガイドラインの説明に集中しているようにも思えてなりません。そもそもガイドラインは文字通り“ガイドライン”でしかなく、ガイドラインで不合理であるとされている事例でさえ、各企業の考え方によっては不合理ではないとされる可能性もあるというような説明はあまり見かけません。

筆者や筆者のスタッフが都府県各労働局に複数回照会していますが、行政見解はガイドラインは“ガイドライン”でしかなく、ガイドライン違反が即法違反とはならないというPMP結論と同様のように思えます。

本法対応としての的確なものは以下のようなアクションだろうと思います。まず自社の有期雇用者や短時間労働者の処遇全体を見直し、正社員との相違をリストアップした上で、ガイドラインについては参考に留めておき、ガイドラインからは不合理と判断される事例に対しても、自社のこれまで積み上げてきた人事上の考え方に照らして不合理であるか否かという事を判断する事です。その際わが社における非正規の労働力とはどのような役割を担い、それは正社員の役割とどう異なるのかいう事からはっきりと明文化させる事だと思います。そのような作業過程では、労働組合など労働者側の意見も前広に聴取し、労使一体となってわが社の非正規労働者の処遇体系を整理する事が今は求められています。そのような作業をした上でガイドラインから離れて、わが社としてこの処遇については確かに不合理であるとの結論になった時に見直すべきでしょう。

かかる作業プロセスはまた、同第14条2が求める説明責任に対応するためにも必要なものだと思います。この第14条違反は企業名公表にも繋がるものです。同法8条=均衡待遇に違反したとしても企業公表はされませんので企業名公表というリスクマネジメントンの観点からいっても、ガイドラインに則して処遇の一項目の修正を行うのを優先するのではなく、ガイドラインではカバーされていない退職金や家族手当、住宅手当なども含めた非正規労働者の処遇全般をまず最初に会社独自の視点からレビューする事を強くお勧めします。